診療マル秘裏話  号外Vol.973 令和4年8月3日作成

作者 医療法人社団 永徳会 藤田 亨




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目次

1)尿中エクソソーム蛋白質測定で,膀胱ガン診断する検査
2)レプチンとPTP1B阻害薬併用投与で1型糖尿病治療












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 医療界のトピックスを紹介するこのメールマガジンは
1週間に1回の割合で発行しています。もっと回数を増や
して欲しいという要望もあるのですが、私の能力のなさ
から1週間に1回が限度となっています。これからも当た
り前の医療をしながら、なおかつ貪欲に、新しい知識を
吸収し読者の皆様に提供してゆきたいと思っております。
不撓不屈の精神で取り組む所存ですのでどうかお許し下
さい。

 









 
1】 尿中エクソソーム蛋白質測定で,膀胱ガン診断する検査











 医薬基盤・健康・栄養研究所
(NIBIOHN) は7月8日、膀胱ガ
ン患者さんの尿中に分泌される
細胞外小胞(エクソソーム)の
膜蛋白質「EphA2 (エフエーツ
ー)」を測定することで膀胱ガ
ンを診断する、新たな検査法を
確立したと発表しました。この
研究は、同プロテオームリサー
チプロジェクト、近畿大学医学
部泌尿器科学教室の藤田和利准
教授、大阪大学大学院医学系研
究科からなる共同研究グループ
によるものです。研究成果は「
British Journal of Cancer」
誌にオンライン掲載されていま
す。

 膀胱ガンは日本で年間約2万5
,000人が発症し、早期に診断さ
れた場合は根治も可能ですが、
進行して見つかると予後が非常
に不良であり、早期診断が特に
重要です。しかし、診断に用い
られる膀胱鏡による検査は、刺
激の強さから患者さんへの負担
が大きいだけでなく、費用も高
く、スクリーニング検査には適
していない方法です。また、膀
胱ガンは血尿を契機に発見され
ることが多いのですが、検診な
どで血尿を指摘されても、膀胱
ガンと診断される確率はわずか
0.5%であり、負担の大きい膀胱
鏡検査が多くの患者さんに不要
に行われているのが現状となっ
ています。他には、尿中にこぼ
れ落ちた細胞を専門の病理診断
医が観察して診断する尿細胞診
も、膀胱ガンの診断法として一
般的に用いられますが、正しく
診断される確率は約30%程度と
低く、ガンの見逃しが問題とな
っています。そのため、患者さ
んの負担が少なく、かつ高精度
に膀胱ガンを診断できる検査法
の開発が待ち望まれています。

 研究グループは、膀胱ガンが
尿中に分泌するエクソソームと
いう物質に着目しました。エク
ソソームとは、あらゆる細胞が
体液中に分泌する細胞外小胞の
一種で、細胞同士の情報伝達に
用いられ、分泌元の細胞由来の
分子が含まれるため、ガン由来
のエクソソームを研究すること
で、ガンの診断や治療効果判定
に利用できると近年期待されて
います。また、研究グループは
先行研究において、尿中に含ま
れるエクソソーム表面の蛋白質
と、ガン組織から直接培養液中
に分泌させたエクソソーム表面
の蛋白質を質量分析により網羅
的に解析することで、両者の大
部分が重複していることを確認
し、尿が膀胱ガン由来のエクソ
ソームを検出するのに適切な体
液であることを報告していまし
た。今回の研究では、複数の候
補蛋白質について質量分析で定
量を行い、血尿や膀胱炎で上昇
しない尿中エクソソーム蛋白質
を絞り込みました。そのうえで、
診断マーカー候補蛋白質の中で
特に有望であった尿中エクソソ
ーム蛋白質「EphA2」 に着目し
ました。

 尿中エクソソームの主要な回
収法は超遠心法とされています
が、高額な機械(超遠心機)を
必要とし、時間もかかることか
ら、臨床現場での使用は現実的
ではありません。研究グループ
は臨床応用可能な測定系の開発
を行うべく、エクソソームの回
収にPSアフィニティー法を採用
しました。これは、エクソソー
ム膜面のホスファチジルセリン
に結合するTim4蛋白質を利用し
た技術で、高純度なエクソソー
ムを短時間で回収することが可
能だということです。研究グル
ープは、PSアフィニティー法に
より尿5ml からエクソソームを
回収し、プレートに固体化した
EphA2抗体でEphA2陽性エクソソ
ームを捕捉し、エクソソームの
表面マーカーであるCD9 に対す
る抗体でエクソソームを検出す
るELISA法による測定系(EXO-E
phA2-CD9 ELISA)を開発しまし
た。

 この測定系により、尿からの
エクソソーム回収およびエクソ
ソーム蛋白質表面のEphA2 の測
定までを簡便に行うことが可能
となりました。本検査法の膀胱
ガン診断を、72人の尿(膀胱ガ
ン患者さん36例、血尿や膀胱炎
患者さんを含む非膀胱ガン患者
さん36例)を用いて評価したと
ころ、感度(病気を言い当てら
れる確率)が61.1%、特異度(
間違えて病気だと診断してしま
わない確率)が97.2%と優れた
診断能を示しました。

 現在膀胱ガンのスクリーニン
グ検査として一般的に用いられ
ている尿細胞診の感度が50%に
留まるのと比較しても、今回開
発した検査方法が尿細胞診のみ
では見落とされがちな早期膀胱
ガンの検出において、尿細胞診
よりも優れることが分かりまし
た。また、尿細胞診が病理診断
医の習熟度に依存し、結果を得
るのに1週間程度を要するのに
対し、本検査は数時間で診断可
能である点でも優れた検査法だ
と言えます。なお、尿細胞診と
本検査を組み合わせた場合、感
度80.6%、特異度97.2%と診断能
はさらに向上し、尿細胞診と本
検査を同時に行うことで、膀胱
ガンの診断能が向上する可能性
も示唆されました。

 今回の研究では、膀胱ガン患
者さんと非膀胱ガン患者さんの
尿中エクソソームの蛋白質につ
いて、質量分析器を用いて網羅
的に解析することで、膀胱ガン
患者さんの尿中では「EphA2」
という蛋白質が増加することを
発見し、これを膀胱ガンの新規
診断マーカーとして同定しまし
た。さらに、尿からのエクソソ
ーム回収にPSアフィニティー法
を用いることで、尿中エクソソ
ーム表面のEphA2 を簡便に測定
する検査法の確立にも成功しま
した。「研究結果により、膀胱
ガンの診断時や経過観察時に繰
り返し行われる膀胱鏡検査を減
らし、患者の身体的、経済的負
担を軽減することができると期
待される」と、研究グループは
述べています。

 膀胱ガンについて解説してい

る動画です。

 

 

 

 



 改修作業で廃棄物を回収した。
















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2】 レプチンとPTP1B阻害薬併用投与で1型糖尿病治療














 1型糖尿病患者さんはインス
リン依存状態にあり、インスリ
ン治療が必須とされています。
しかし、インスリン治療には生
涯にわたる頻回の皮下注射によ
る負担、低血糖や異所性脂肪の
蓄積および動脈硬化といった副
作用のリスク、血糖コントロー
ルの難しさなど課題が多いこと
が分かってきました。また、イ
ンスリン製剤に対してアレルギ
ーを生じた場合に他の薬剤や治
療法の選択肢が少ないといった
問題点もあります。そこで、名
古屋大学総合保健体育科学セン
ター保健科学部准教授の坂野僚
一氏らの研究グループは、イン
スリンを使用しない治療法を追
求する中で、脂肪細胞から分泌
されるレプチンを用いた新たな
治療法を開発したとDiabetes(
2022年6月24日オンライン版)
に発表しました。

 これまでの研究から、インス
リン投与以外での糖代謝の改善
方法として、レプチンを1型糖
尿病モデル動物に中枢投与する
方法が知られています。レプチ
ン投与には、低血糖のリスクが
低い、脂肪合成が抑制される、
1型糖尿病の重篤な合併症であ
るケトアシドーシスを改善する
などの利点があることが分かっ
ています。しかし、齧歯類およ
びヒトの研究から末梢投与では
糖代謝改善効果が限定的なため、
臨床応用は困難だと考えられて
いました。

 また、レプチン受容体シグナ
ルはProtein-tyrosine phospha
tase 1B(PTP1B)が神経伝達物
質の原料であるチロシンの脱リ
ン酸化に作用することで阻害さ
れる半面、PTP1B 欠損下では亢
進することも知られています。

 そこで、研究グループはイン
スリン依存状態化したモデルマ
ウスを用いた実験で、レプチン
とPTP1B 阻害薬併用投与による
糖代謝改善の効果を検証しまし
た。

 研究グループはまず、PTP1B
欠損下でのレプチンの作用機序
を解析するため、PTP1B 欠損(
KO)マウスおよび野生型(WT)
マウスに膵β細胞への選択的毒
性を持つstreptozotocin(STZ)
を投与し1型糖尿病モデルを作
成しました。両マウスにレプチ
ンを末梢投与した所、WTマウス
では有意な高血糖状態が継続し、
KOマウスではSTZ 投与前と同等
レベルまで糖代謝が改善しまし
た。また、インスリン依存状態
化したKOマウスおよびWTマウス
に、末梢投与では全く影響を与
えない極めて少量のレプチンを
中枢から投与した所、WTマウス
と比べKOマウスでは有意な糖代
謝改善を認めました。

 次に、レプチン+PTP1B 阻害
薬併用投与による影響を調べま
した。インスリン依存状態化し
たWTマウスに末梢からそれぞれ
レプチン単独、PTP1B 阻害薬単
独、レプチン+PTP1B 阻害薬を
投与し、糖代謝を3群間で比較
しました。その結果、レプチン
またはPTP1B 阻害薬単独投与群
では若干の糖代謝の改善を認め
たものの、STZ 投与前と比べて
有意な耐糖能障害を呈したのに
対し、レプチン+PTP1B 阻害薬
併用投与群ではSTZ 投与前と同
等レベルまで糖代謝の改善を認
めました。

 研究グループはさらに、レプ
チンの末梢臓器における作用経
路を明らかにするため、インス
リン依存状態化したKOマウスと
WTマウスにレプチンを末梢投与
し、筋肉および褐色細胞におけ
る2-デオキシグルコース(2DG)
の取り込み量を測定しました。
その結果、交感神経を抑制する
β遮断薬を投与または褐色脂肪
細胞に入る交感神経を切断する
と、両群とも2DG の取り込み量
は有意に減少し、有意差は消失
しました。

 加えて、レプチンが作用する
脳内の標的ニューロンを調べる
ため、視床下部弓状核に存在す
るpro-opiomelanocortin(POMC)
ニューロンまたはagouti-relat
ed peptide(AgRP)ニューロン
特異的にPTP1B を欠損させた1
型糖尿病モデルマウス(それぞ
れP-KOマウス、A-KOマウス)を
作製しました。レプチンを末梢
から投与して糖代謝の変化を比
較検討しました。その結果、A-
KOマウスとインスリン依存状態
化したWTマウスで糖代謝の改善
作用に有意差を認めませんでし
たが、P-KOマウスはWTマウスと
比べて有意な糖代謝改善を認め
ました。

 以上の研究結果から、レプチ
ンは脳に作用し自律神経を介し
て肝臓における糖の産出を抑制
するとともに、末梢の各臓器で
糖の取り込みを促進することが
示されました。また、レプチン
をPTP1BKO マウスに投与、また
はWTマウスにPTP1B 阻害薬を併
用投与するとレプチンの作用が
増強され、1型糖尿病モデルマ
ウスにおいてインスリン非投与
下であっても糖代謝を改善する
ことが確認されました。

 研究グループは「臨床応用す
るに当たってはさまざまな検証
が必要だが、レプチンとPTP1B
阻害薬の併用投与は、インスリ
ン依存状態の糖尿病に対する新
たな治療法として、有用な可能
性がある」と展望しています。

 1型糖尿病について解説して

いる動画です。

 

 

 

 



 糖の産出量を算出した。 笑














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編集後記



 医薬基盤・健康・栄養研究所
(NIBIOHN) が7月8日、膀胱ガ
ン患者さんの尿中に分泌される
細胞外小胞(エクソソーム)の
膜蛋白質「EphA2 (エフエーツ
ー)」を測定することで膀胱ガ
ンを診断する、新たな検査法を
確立したと発表したのは、素晴
らしい業績です。非侵襲的で、
かつ簡便に正確に診断できる検
査法として普及することを期待
したいと思います。やや煩雑で
時間がかかる尿細胞診と併用す
ることで、更に正確な診断が可
能ということは特筆すべきこと
でしょう。膀胱鏡などの侵襲的
検査は確定診断で行うべきもの
で、スクリーニング検査には適
さないと考えられます。
 名古屋大学総合保健体育科学
センター保健科学部准教授の坂
野僚一氏らの研究グループが、
インスリンを使用しない治療法
を追求する中で、脂肪細胞から
分泌されるレプチンを用いた新
たな治療法を開発したとDiabet
es(2022年6月24日オンライン
版)に発表したのは素晴らしい
業績です。インスリン治療には
生涯にわたる頻回の皮下注射に
よる負担、低血糖や異所性脂肪
の蓄積および動脈硬化、認知症
といった副作用のリスク、血糖
コントロールの難しさなど課題
が多いため、レプチンとPTP1B
阻害薬の併用投与は新しい治療
法として大いに期待したいと思
います。

 駐車して、皮下注射を行った。















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